「明日、キム・イッキ大臣に会えばもうすべてが終わるんだな・・・。」
猟師の伝言を聞いたヨンイはキム・イッキからアボジの死に関する話を聞けばもう自分がイルジメとして生きて行くこともないと思いました。
想いに耽っていたヨンイの目に入ってきたのはウンチェのハンカチ。
そのハンカチは今でも綺麗に畳まれて置かれていました。
ウンチェに対する彼の気持ちのように・・・

ハンカチを掴み、最後にすべてが終わる前に・・・しなくてはならないことが・・・
会わなくてはいけない人が思い出されました。
イルジメとして・・・・。
イルジマ(一枝馬)に乗って夜出かけていたウンチェの目に突然梅の花びらが舞います。
視線をあげてみると屋根の上でイルジメが自分に花びらを飛ばしながら座っています。
微笑みまで浮かべながら・・・。
「弓の腕前が普通じゃなかったですけど?」

「今まで私がどれほど探し回ったのかご存じですか?」
軽くありがとうと挨拶をしたかったのです。
いえ、最後にウンチェにもう一度だけ会いたかったのかも知れません。
だけど彼女はろくに目も合わしてくれず、怒っています。
自分を探しまわったと言います。
おそらく自分が武術訓練をするために去っていたあの時のことを言っているようです。
「あのように怪我をされて・・・いったいどれくらい経ったかおわかりですか?」
ちょっとは恨めしさが込められ、ちょっとは哀しそうにも見える彼女が自分を見つめます。
「僕の命を助けてくださったお礼を言いに来ました。」
この男はわかっているのでしょうか?
自分がどれほど彼を探しまわったのか・・・。
死んだとばかり思ってその噂の中でどれほど心がすり減ったのか・・・。
それなのにこうやって現われてただ命を助けてくれてありがとうとは・・・。
「わかりました。それでは。」
少し腹が立ったのかも知れません。
無情にも消息ひとつなく、死ぬほど気にかけさせた彼に。
だけどこうやって訪ねてきてくれたのですね。
自分にありがとうと言いにこうやって来てくれたのですね・・・。
でもそのままそこにいたら、あまりにも嬉しい自分の気持ちがばれてしまいそうです。
だからその瞬間を抜け出したかったのかも知れません。
急にその場を去ったのはそのせいです。
こうやって訪ねてきてくれた彼がとてもありがたくて、嬉しくて・・・。
馬に乗って去ってしまったウンチェを見つめていたイルジメはうなだれます。

俺が悪かったのだろうか・・・
俺が何か彼女の怒りを買うようなことをしたのだろうか・・・
寂しくうなだれていたイルジメの耳に馬の足音が聞こえます。
彼女!
ウンチェがまた戻ってきました。

自分を見つめる目には喜びと嬉しさでいっぱいでした。
ウンチェのそんな姿を見ながら自分もまた馬鹿みたいに笑っているのはわかっていました。
自分を見つめながら何か言いだしそうなウンチェを他の誰かが探しに来ました。
このまま彼女を帰すわけにはいきません。
考えるより行動が先だったようです。
後先考える余裕はありませんでした。
ただ彼女ともうちょっと一緒にいたいという欲心。
彼女が座っている馬に飛び降り、一緒に乗って走りました。
二人きりでいられるところへ・・・。

不思議だとでも言いましょうか・・・。
何も話さなくとも、一緒に馬に乗っているだけでも微笑むことができるんです。
振り返ると彼がいます。
自分の後ろで一緒に手綱を掴んでいるのは本当に恋しくて恋しかったイルジメです。
自分の前に座っている人はウンチェです。

時々振り返って微笑む姿はとても美しくもあります。
初めて燈篭を持って一緒に歩いた道。
今は一緒に馬に乗っています。

少しでも長くこうしていたいです・・・。
この道がちょっとでも長ければいいのに・・・。
「ご存じないでしょう?梅が咲く頃になるとここがどれほど美しいのか・・・。」

自分が知らないわけがありません。
ウンチェと一緒にたどり着いたところは自分が住んでいた家。
その梅の美しさをウンチェが覚えていました。
まるで夢を見るように見つめるウンチェの姿もまた梅が咲いていたあの日のように美しいものです。
いつの間にか二人は梅の木の上に座っています。
「私にとっては特別な場所なのでぜひお見せしたかったのです。」

彼女が話し始めます。
キョムだった自分。
小さな子だった自分がウンチェの初恋だと言います。
それなのに死んでしまったと・・・。
そうだとは知りませんでした。
自分だけが一人記憶し、懐かしがっていたんだと思っていたのに
彼女がキョムだった自分をそうやってずっと心に秘めていたとは・・・。
今でも切なさが残っているというウンチェの言葉を聞き
「死んでもその子は幸せでしょうね・・・。」とイルジメが言います。
それはひょっとすると自分の気持ちかもしれません。
ウンチェの前にキョムとして出ていくことはできないけど
こうやって切なさとして残っていられて幸せだという自分の気持ち・・・。
「そしてここで一人の男に会いました。
もしかして死んだあの子が生き返ったんじゃないかってしばし馬鹿みたいなことを考えたりもしました。」
彼女の話は続き、彼女の話の中でキョムだった自分とヨンイだった自分が生きています。
両方とも自分なのに・・・・
彼女を思い出に浸らせ、初恋の切なさを大切にしまわせたたった一人
それは自分なのに・・・自分がキョムだと・・・自分がその男だと言うことができません。
それは馬鹿みたいな考えではなく実は死んでおらず生きていたんだと・・・
そしてこうやってまた会えたんだととうてい言うことができません・・・。
彼女の心の中にいるたった一人の人、それが自分なのに・・。
「顔を見せては・・・・」
自分の仮面に近づくウンチェの手を掴みます。
「申し訳ありません・・・。」
我に返ったようです。
自分の手を掴んで優しく思いとどまらせるイルジメを見てやっと自分が何をしようとしていたのか驚いてしまいました。
どこからそんな勇気が出てきたのでしょうか・・・。
「もうお会いできないかも知れません・・・。」
「え?どうして・・・?」
驚く彼女を見てどうしても自分の気持ちをこれ以上隠す自信がありませんでした。
もしかしたら最初で最後かも知れません。
彼女とこうやって話をするのも、こうやって気持ちを分かち合うのも・・・。
頭に巻いていた布を解き、彼女の目を覆います。
びくっと驚いた彼女は俺の目を見てから、自ら目を閉じます。

彼女も知っているのでしょうか・・・。
今の俺の気持ちを・・・・・
本当は顔を見せてあげたいけど見せてあげられない俺の気持ちを
彼女がわかってくれているようです。
目を覆ってから彼女の前で仮面をはずします。

そっと彼女の肩を掴み俺の方に向けて首を傾けて彼女にくちづけをします。

俺が言いたいすべての言葉。
俺の恋しさもウンチェただ一人だったことを。
ヨンイとして・・・イルジメとして・・・
ウンチェと会った時はどれほど俺の気持ちを伝えたかったのか・・・
そうできずにいつも他の人になったかのように行動するのがどれほどつらかったのか・・・
ただ平凡な男になってウンチェの前に現れることができなるのならどれほど良かったのか・・・

やっとウンチェの気持ちもわかったのに・・・
自分は別れを告げなければなりません。
会うのはこれが最後になるかもしれないと・・・。
どうしても言えずにこうやってくちづけを代わりにする自分をずっとずっと切なさとして覚えていてくれるでしょうか・・・。

言葉にすることができなくてこうやって代わりにくちづけをします。
愛しているという言葉も・・・
もうお別れだという言葉も・・・・・・。
(文・画像
「イルジメ(一枝梅)」公式HP ユン・ゴウンのレビューレターより)
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